保育現場の人手不足が全国的に深刻化するなか、練馬区内の私立認可保育園でも「スキマバイト」を活用した保育士の採用が広がっています。
10月1日の決算特別委員会で、私はスキマバイトにおける着替え補助など不適切な運用が見られる点を指摘。そのうえで、根本的な解決には保育士の待遇改善が不可欠であると訴えました。(報告はこちらをご覧ください。)
こうした中で、練馬区は国の調査に対して「区内の私立保育園では保育士不足はない」との認識を示していたのです。練馬区は一体、何を見ているのか?以下、質疑の概要を報告します。
【岩瀬の訴え】現場の声を聴かずに「不足なし」とは言えない
子どもの最善の利益を守るためには、保育士が安心して働ける環境の整備が前提です。そのためにこそ、区による支援が必要です。
ところが、練馬区が昨年11月に子ども家庭庁が実施した「保育人材確保に向けた市区町村アンケート」にどう回答したのかを情報公開請求で確認したところ、信じがたい内容が明らかになりました。
【質問①】なぜ練馬区は「私立園では保育士不足なし」と答えたのか?
区は、保育士を募集しても採用できなかった私立園の数や、離職した保育士の数について
「把握していない」と回答。
(出典:保育人材確保に向けた市区町村アンケート(練馬区回答))
それにもかかわらず、常勤・非常勤ともに
「過不足はない」と回答していました。
(出典:保育人材確保に向けた市区町村アンケート(練馬区回答))
全国の人口30万人以上の自治体(67自治体)のうち、約8割が「保育士は不足傾向」と答える中、練馬区のように「過不足なし」としたのはわずか5自治体のみ。
仮にそれが事実であれば“奇跡的”な状況と言えます。
(出典:保育人材確保にむけた効果的な取組手法等に関する調査研究 77ページ)
なぜ練馬区では、私立園の深刻な人手不足を「ない」と判断したのでしょうか?
保育士不足に悩む現場の実態と、あまりにも乖離しています。
【練馬区の回答】
「余裕のある体制を組みたくても採用が難しいという声は届いている。
しかし、すべて定員を受け入れるための配置はできており、基準を満たしているため“過不足なし”と回答した。」
【岩瀬の指摘】基準を満たすだけでは「不足なし」とは言えない
配置基準を満たすのは当然です。
多くの自治体は基準を満たしたうえで「不足傾向」と答えています。
練馬区の回答は、法的な最低基準と現場の実態を混同しています。
しかも、同じ調査で区は公立保育園の非常勤職員については
「全て・ほとんどの地域で不足傾向にある」と回答。
(出典:保育人材確保に向けた市区町村アンケート(練馬区回答))
もし区の説明が事実なら、公立園では法に示された配置基準を満たしていないというのでしょうか?
さらに、練馬区は公立園の人材流出の理由として
「条件のよい近隣市区町村や都市部に人材が流れてしまう」
としています。
(出典:保育人材確保に向けた市区町村アンケート(練馬区回答))
待遇の悪さを自ら認めているにもかかわらず、改善策を講じないのは矛盾です。
【岩瀬の訴え】保育士確保には、実効的な支援と待遇改善を
同じ調査で、練馬区は保育士確保に向けた国の補助事業――
「保育の質向上のための研修事業」
「新卒者の就業継続支援金」
「多様な保育研修事業」
――をいずれも活用していません。
その理由として
「事業ニーズが未確認で、事業者から要望もない」と回答しています。
しかし、まさにそれらこそ現場の保育士や園が求めている支援です。
「ニーズがない」と言う前に、現場の声を丁寧に聴き取ることが必要です。
また、練馬区自身が「若者の雇用定着支援には奨学金返済補助が有効」と認めています。
実際、23区のうち少なくとも4区(例:新宿区・豊島区・目黒区・港区)では、私立園保育士に年10〜24万円の奨学金返済補助を実施しています。
練馬区でも、現場に根ざした支援策を早急に導入すべきです。
【まとめ】
練馬区が「事業者の声を真摯に聴きながら支援する」と掲げるなら、まずはその姿勢を実践で示すべきです。
現場の声を聴かずに「不足はない」と言い切る行政の姿勢こそ、最大の課題ではないでしょうか。
🔍参考資料・出典
・令和6年度子ども・子育て支援推進調査研究事業(こども家庭庁補助事業)保育人材確保に関する市区町村アンケート (練馬区回答)
・令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業 「保育人材確保にむけた効果的な取組手法等に関する調査研究報告書」