新垣修ICU教授の『時を漂う感染症』を読みました。新垣先生といえば、日本の難民・無国籍等に関係する国際人権法の第一人者でいらっしゃることは存じておりましたが、本書では、コレラやペストにはじまりHIV/AIDS、コロナ等の感染症の世界における蔓延と対処を、時間軸を追って、歴史的・政治的・宗教的な背景を交えながら、多国間交渉と国際法がそれにどのように関わっていったのかについて幅広い学際的な視点から分析されています。

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766427622/

感染症が蔓延するたびに人種差別やマイノリティに対するヘイトが起こるという歴史的事実や、現在のコロナワクチンの分配をめぐる政治的かけひきや先進国による囲い込み、そして国境管理体制の強化。そして、国際人権法上の「健康への権利」や「平等・無差別」の原則、その実現のための国際的援助・協力の義務が開発途上国の人々の感染症医薬品へのアクセス等に果たしうる役割と、国際規範の確立のために歴史を振り返る必要性。大局的な観点からの洞察がとても勉強になりました。

最後に引用される、WHO憲章案が議論された国際保健会議の議長による1944年に書かれた言葉。

「自分たち以外の世界が炎に包まれているうちは、我々も平和ではいられないことを、二度の世界大戦の結果から学んだ。同様に、自分たち以外の土地で疫病が猛威をふるっているうちは、我々もそれから逃れることはできないと思う」。

これは日本国内の外国籍・無国籍住民の医療アクセスの問題をとってもあてはまります。ぜひご一読ください。