10月16日、練馬区議会の文教児童青少年委員会の行政視察で大阪府の寝屋川市を訪問。目的は“寝屋川モデル”と呼ばれる「いじめゼロに向けた新アプローチ」について学ぶためでした。同市では、学校でのいじめについて、学校・教育委員会による通常の教育的アプローチのほかに、危機管理部の監察課による行政的なアプローチをとっている点に特徴があります。監察課は独自の調査権限を有し、条例に基づき懲戒・出席停止・学級替え・転校支援などの是正措置を勧告できることが定められています(寝屋川市条例第23号)。この仕組みは「人権侵害としてのいじめに行政が直接介入する」点で注目され、全国の自治体から視察が相次いでいます。
1.寝屋川市の概要と練馬区との比較
寝屋川市は大阪府北東部に位置し、大阪市と京都の中間にある人口約22万3千人の都市です(令和6年10月現在)。昭和26年の市制施行当時は約3万人でしたが、高度経済成長期に大阪市のベッドタウンとして発展しました。
市内には小中学校35校・児童生徒約1万5千人が在籍し、令和5年度のいじめ認知件数は431件、令和6年度は554件とのこと。
一方、練馬区は人口約75万人、小中学校98校、児童生徒約4万7千人、令和5年度のいじめ認知件数は約2,400件です。
3.監察課の設置と目的
監察課は令和元年(2019年)10月、市長部局の危機管理部内に新設されました。特定事件の発生を契機としたものではなく、「子育て世帯への新規支援施策」として立ち上げられました。
設立理念は、教育委員会の活動を否定するものではなく、学校や教育委員会で対応しきれない“漏れ”を行政が補完すること、また教員の負担を軽減し、本来業務に専念できる環境を整えることにあります。
市は「いじめゼロを目標に、認知した案件をすべて停止・終結させることで結果的にゼロを目指す」という方針を掲げています。
4.監察課の体制
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職員数:9名(課長1・係長2・担当職員4・会計年度任用職員1・任期付短時間職員1)
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法務支援:総務課(法規担当)から課長級1名・係長級1名が兼務、うち1名は弁護士資格を有する。
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職員構成:教育職・福祉職の専任配置はなく、一般行政職が中心。
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年間予算:約70万円(人件費を除く)
4.監察課の業務と条例上の位置づけ
監察課は行政的アプローチをとっており、いじめを人権問題として捉え「いじめの即時停止」を目的にしています。そのため1カ月の短期間で判断・解決を目標としており、独自に収集した一時データに基づき対応を行っています。
こうした業務は「寝屋川市子どもたちをいじめから守るための条例」(令和元年条例第23号)に基づいています。条例では、いじめを「児童等の命と尊厳を脅かす人権侵害」と位置づけ、市民・保護者に情報提供の責務を課すとともに、市長に次のような権限を与えています。
主な規定(第11~15条)
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学校等への資料提出や説明要求、実地調査の実施(第11条)
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必要な場合、いじめ停止のための是正勧告(第13条)
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見守り・環境整備
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訓告・別室指導・懲戒(学校教育法11条)
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出席停止(同35条1項)
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学級替え
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転校相談・支援
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令和元年度から令和6年度までの間に、勧告件数は計8件とのことでした。
5.教育委員会とのすみわけ
保護者は、学校・教育委員会による教育的アプローチ、または監察課による行政的アプローチのどちらかを選択して相談することができます。
令和6年度の554件のいじめ認知件数のうち、監察課が対応したのは186件でした。教育委員会と監察課は情報共有を行いつつ、学校現場への過度な干渉を避けながら連携しているとの説明でした。
6.被害児童への支援制度
寝屋川市では独自に「いじめ被害者支援事業補助金」を創設し、
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弁護士費用等の支援
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転校に伴う費用補助
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被害児童の所有物に関する現状回復支援
などを行っています。
年間予算は約70万円で、令和6年度は1件が支給対象となりました。
7.通報促進と早期発見の取組
寝屋川市では「攻めの情報収集」として、毎月1回、全児童生徒にいじめ通報促進チラシを配布しています。
このチラシを通じて令和6年度に監察課へ寄せられた186件のうち、63件がチラシ経由だったとのことです。通報は電話(フリーダイヤル)、メール、公式アプリからも受け付けています。
8.練馬区での検討に向けて
寝屋川市の取組は、「教育委員会だけに依存しない、行政部局の直接関与」という点で画期的だと思います。いじめの即時停止を目的に、行政が法的根拠に基づいて迅速介入する仕組みは、練馬区にとっても参考になります。
他方で同様の仕組みを練馬区に導入する場合は専門性をどう担保するか、勧告の法的拘束力や、教育委員会との役割分担など、多くの検討課題もあると感じます。他方でいじめ発見のための「月1回のチラシ配布」という啓発は極めて有効な手法だと思います。練馬区でも認知件数が2,400件を超える現状を踏まえると、こうした新たな情報収集の仕組みを導入できないか検討すべきだと感じています。今後の練馬区のいじめへの取組について、ぜひご意見などお寄せ頂けたら幸いです!これまでの訴えはこちらをご覧ください。
📚参考資料・出典リンク一覧
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寝屋川市「寝屋川市子どもたちをいじめから守るための条例」(令和元年条例第23号):PDF(市公式)
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寝屋川市 監察課トップページ(制度概要・相談窓口・チラシ):寝屋川市公式|監察課(危機管理部)
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東洋経済オンライン「『寝屋川モデル』が目指す、いじめゼロの現実的手法」:記事を読む
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毎日新聞いじめ解決には漢方薬でなく外科的治療で 注目集める寝屋川方式:記事を読む