戦後80年を迎える中、石破総理は「戦後80年所感」を発表しました。その内容では、国内でも広がるポピュリズムや排外主義に触れながら、歴史に正面から向き合い、そこから学ぶことの重要性が繰り返し示されています。

今年に入り、戦後80年を契機に全国の自治体で戦争を考察する事業が拡大し、歴史に真摯に向き合う姿勢が見られます。しかし、練馬区はこうした流れに逆行するように、今年度の平和関連予算を削減しました。9月の一般質問で区の姿勢を質しました。その概要をご報告します。

1.平和予算について

戦後80年という節目にあたり、練馬区の歴史に向き合う姿勢を問いました。全国の自治体では、戦争の記憶を次世代に継承する取り組みが進んでいます。

たとえば、新宿区では「デジタル版戦争体験集」の作成を含む平和事業に2,500万円、文京区では被爆の実相を伝える企画等に400万円を計上。世田谷区や杉並区などでも、記念誌の発行や戦跡の保存、ユースとの協働、学校との連携など、「未来につなぐ平和教育」が活発に進められています。

一方で、練馬区は「戦後80年、平和に関する取組を推進」と掲げながらも、その内容は例年とほぼ同様の平和祈念コンサートやパネル展が中心です。

実際、本年度の当初予算における「平和推進経費」はわずか248万円。調べた限り、23区で唯一の減額です。区は「昨年度の実績を踏まえて精査した結果」と説明していますが、戦後80年という節目にあって新たな取組を広げようとしなかった点は、平和に対する後ろ向きな姿勢といわざるを得ません。(詳細はこちらをご覧ください。)

■令和6年度 練馬区当初予算 平和推進経費 258万5千円

■令和7年度 練馬区当初予算 平和推進経費 248万3千円

 

こうした中、練馬区在住の被爆者の方は令和元年度に284名だったのが、令和6年度には209名へとわずか5年で約3割も少なくなっています。

「日本も核武装すべき」といった主張が一定の支持を得る状況だからこそ、被爆者の証言を記録・デジタル化し、その肉声を未来へと継承する責務があります。

岩瀬の訴え 平和事業の拡充を

戦後80年を単なる「通過点」とせず、平和の理念を次世代につなぐためにも、被爆体験のデジタルアーカイブ化やユースとの協働など、平和事業の拡充を図るべきです。
区の見解を求めました。

練馬区の回答

今年は区内の被爆者団体の協力を得てパネル展の資料を充実させ、平和祈念資料館から借用した原爆被害資料を展示しました。区立図書館やふるさと文化館での展示・講演会の充実を図りました。

(出典:ねりま区報)

令和5年度からは戦時体験講話を、令和6年度からは平和祈念コンサートも動画配信しています。
来年度は被爆者団体からのご意見を伺い、講演者を選定し、動画配信を行う予定です。

令和7年度予算は、令和6年度の実績をもとに精査したものです。

平和推進事業は一過性の取組ではなく、区民が平和を考えるきっかけとなるよう、継続的な取組を着実に推進していくことが大切であると考えています。
引き続き、事業の充実に努めてまいります。

岩瀬の感想

区は新たな事業も実施したとのことですが、他区と比較するとその取組規模には大きな差があります。

また、平和予算を減らした理由として「実績を踏まえた精査」と説明しましたが、戦後80年という節目に新たな試みを行わなかった点こそ問題です。

来年度、被爆者団体の講演を実施することは評価しますが、若い世代が参加できる学習会の開催やデジタル資料の作成など、より一層の取組が求められます。

2.稲荷山憩いの森の戦争遺跡について

関連して、稲荷山憩いの森の戦争遺跡についても質問しました。
区が400世帯以上の立ち退きを求める稲荷山公園基本計画。その地下深くから、旧日本軍の巨大地下施設が2022年に発見されました。

約60畳に及ぶ空間や複数の部屋、通路が確認され、この施設は大和田通信隊・土支田分遣隊に所属していたことが判明しています。大和田通信隊は真珠湾攻撃の暗号「トラ・トラ・トラ」やポツダム宣言の受信で知られています。

NHKの報道によれば、全国ではすでに約2割の戦争遺跡が失われています。地域でこのような遺構が発見された意義は極めて大きいものです。

岩瀬の訴え 戦争遺跡の保存・整備を

戦争の記憶を残し、平和を語り継ぐためにも、保存・整備に向けた具体的対策を取るべきです。
また、多くの住民が反対している稲荷山公園基本計画は中止すべきです。区の見解を求めました。

練馬区の回答

練馬の貴重な緑を保全し、さらに豊かにして次世代に引き継ぐことは区の責務です。
稲荷山公園の整備に向け、学識経験者で構成する専門家委員会において検討を進めています。

これまで、稲荷山憩いの森の地下にある施設について、文献調査や現地調査を実施してきました。
引き続き、施設の実態把握のため、必要な調査を行ってまいります。

岩瀬の感想

区は「緑の保全は責務」と述べましたが、稲荷山公園予定地の多くは住宅街で、400件を超える住居が存在します。

緑を守るのであれば、住宅を立ち退かせて新たに公園を造るのではなく、今まさに失われつつある生産緑地や憩いの森を守るべきです。

また、地下施設は建設から80年以上が経過し、コンクリートの劣化も懸念されます。安全性の観点からも早急な対応が必要です。

戦後80年の今こそ、練馬区が歴史と真摯に向き合い、平和を次の世代に継承する姿勢が求められています。

引き続き、この課題を訴えていきます。皆さまのご意見・ご感想もお寄せください。

過去の訴えはこちらをご覧ください。

参考資料

1)国の動向(戦後80年「所感」)

2)23区の平和関連施策

3)練馬区:平和施策

  • 区報バックナンバー(第33回平和祈念コンサート案内・後日動画掲載の旨):練馬区公式サイト

4)稲荷山憩いの森の地下施設・戦争遺跡

  • 練馬区公式説明ページ「稲荷山憩いの森にある地下施設について」(調査結果、各室寸法、出典資料への言及)。:練馬区公式サイト

専門家委員会資料(地下施設に関する報告。国立公文書館アジア歴史資料センターの「大和田通信隊(土支田分遣隊)引渡目録」への参照あり)。:練馬区公式サイト