国連で安倍首相はシリア難民支援のために8億1000万ドルを拠出すると発言。一方で、日本での難民の受入れに関する言及はなかった。しかし、その後の記者会見では次のように述べている。

「今回の難民に対する対応の問題であります。これはまさに国際社会で連携して取り組まなければならない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々は移民を受け入れる前に、女性の活躍であり、高齢者の活躍であり、出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります。同時に、この難民の問題においては、日本は日本としての責任を果たしていきたいと考えております。それはまさに難民を生み出す土壌そのものを変えていくために、日本としては貢献をしていきたいと考えております。」

…いろんな意味で、驚いた。

まず難民の受け入れは人権・人道の問題、というか、日本が締結している難民条約という国際条約上の義務である。

日本には昨年も5,000人もの難民申請があったにも関わらず、認定されたのは11人(そのほか30人の人道配慮による滞在許可あり)。シリア人に限っていえば、日本でも国内に500人近くのシリア人が暮らし、そのうち約60人が難民申請をすでにしている。結果がすでに出たのが38人で、その中で日本政府が難民として認定したのは3人。つまり認定率は4%に過ぎない。残りは人道配慮による在留特別許可がなされた。

2011年4月~2015年7月末までに欧州各国に入ったシリア人は、ドイツ9万8千人、スウェーデン6万4千人、オーストリア1万8千人、イギリス7千人に達している。入国後の処遇を見ると例えば2014年ではドイツは87%以上(補完的保護による滞在許可を含めると100%)、イギリスは91%以上を難民条約上の難民として認定している(2015年6月18日現在、UNHCRの統計)。
                                             
フェアな見方をすれば、とりあえず日本で申請したシリア人は全員、広い意味での「保護」はされていることは、認識すべきだろう。しかし、この広い意味での保護、「難民条約上の難民」と比べると処遇・権利がかなり劣るという。なぜ、シリア難民の多くを認定しないのか。理由として、要するに(厳密な言い回しではないが)「戦争が起こっており、多くの人が攻撃を逃れてきているから条約上の難民ではない」というような説明がなされているようだが、この戦争の背景にはまさに宗教的・政治的な対立があるのだから、少なくとも大半は、条約上の難民に認定該当しうるはずなのだ。ここがまさに、「難民条約の解釈が狭い」ということで、認定率が低い大きな原因である。

自力でたどり着くシリア人に加えて、難民キャンプなどから直接受け入れる「第三国定住」による受け入れも、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどが名乗りをあげた。28か国が計10万人以上の受け入れを表明している。

確かに、難民が流出する根本原因に対処することは大切だ。しかし、まずは国内に既にいる難民の受入れをしっかりしないといけないのでは。

また、後半の人口問題のくだり。そもそも難民の受け入れを人口問題としてとらえてしまうこと自体問題なのだが、仮に人口問題の文脈で外国人一般の受け入れを語るのであれば、「女性と高齢者の活躍(それ自体の実現にいろいろ課題がある)」だけではもはや、日本の少子化は対応できないのは明らかではないか。また、グローバル化の流れのなかでどの国でも外国人は増える一方であり、何十年も前から一生懸命日本で生活し働き納税し、それこそ「日本経済に貢献」してきた人々も含め、外国人との共生は不可避だ。日本は一刻も早く移民政策を策定して移民の受け入れを正面からすべきなのに、この期に及んで、まだ本気で言っているのだろうか、という気がしてしまう。

これは国の問題だけではない。私が住む練馬区にも難民の方、申請中の方、移住労働者も住んでいる。彼等を含む外国人の方が地域の中で差別や偏見に苦しむことなく、また単に労働力としてみなされるのではなく、地域を豊かにしてくれる仲間として共生できるような仕組みを作ることこそが草の根の国際協力だと信じる。

【難民支援協会】 特集 シリア難民はいま
400万人を超えたシリア難民。
欧米諸国、日本の受け入れ状況は?