練馬区は美術館・貫井図書館の再整備について、今年度の解体着手と来年度の本体工事を見送り、当面は継続開館としました。背景には建設市場の逼迫、労務確保の困難、そして工事費が当初想定の倍以上に拡大する可能性があるというサウンディング調査(市場ヒアリング)の結果について、9月11日の文教児童青少年委員会、区民生活委員会で報告がありました。
この状況を「一時的な延期」で乗り切るのではなく、中止し、建て替えではなく改修で対応すべきです。
1. 価格は当初想定の「倍以上」 市場の正直な反応
区が委託して実施したサウンディング調査では、
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美術館・図書館用途は難易度が高く利益率が低いため、積極受注が期待しにくい。
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労務は逼迫、区想定の工期では人員確保が難しい。
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工事費は“当初想定の倍以上”となる可能性があり得る。
と整理されています。
さらに、ゼネコンからは**「坪単価300万円台では取り組みが難しく、500万円台で印象が変わる」**との見解が示され、コスト設定は不足との回答が多数でした。
補足:延床面積が9,000㎡だと、坪300万円=約81.7億円、坪500万円=約136.1億円。昨年11月の概算工事費では109億円が提示されつつも「適正範囲にない(不足)」評価が多数で、見通しはさらに厳しい状況です。
2. 「令和9~10年」は業界の受注・労務ピーク
区のヒアリングでは令和9~10年が労務のピークとの回答が複数あり、少なくとも1年間は慎重に見極めると区自身が認めています。令和11年以降と考えると、早くとも4年~5年後。今の設計や計画がそのまま使えるとは思えません。無理な強行は、価格高騰・契約不調・工期長期化を招きます。
3. サウンディング調査が突きつけた現実
アンケート・ヒアリングの具体は以下のとおりです。
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参加意思は「条件次第」が多数。単独参加は「条件次第/対応できない」が拮抗。
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工期は不足との見方、労務確保は困難の回答が目立つ。
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コスト設定は不足の評価が建築で多数。
公共案件全般の難度上昇に加え、美術館に対応できる監理技術者の確保難も指摘されています。
4. 「これまでにかかった費用」は8億3,400万円
今回の延期を決めるまでに、既に4億1290万円が支出されており、契約済みで今後支出予定の金額と合わせると8億3400万円に達する事も新たに明らかになりました。さらなる支出を生み出さないためにも、建て替えを中止すべきです。
▲支出済み
美術館再整備基本構想策定支援業務委託料:2,224万円
基本設計及び実施設計委託料前払い金:2億7,349万円
昇降機設備設置工事費前払い金:1億860万円
中村橋駅周辺まちなみ整備総合監修業務委託料:857万円
合計:4億1,290万円
▲契約済みで今後支出の予定
実施設計委託料残金
昇降機設備設置料残金
コンストラクションマネジメント委託料
令和7年度中村橋駅周辺まちなみ整備総合監修業務委託料
合計:4億2,110万円
総計:8億3,400万円
現時点で区はコンストラクションマネジメント業務を延長(令和7年12月まで)し、VE/CD等の検討を継続するとしています。
5. 貫井図書館の改修を急ぐべき
貫井図書館は1985年開館、約40年が経過。照明のLED化もされず、EV故障など設備老朽化が具体的課題として挙げられています。区も「個別に必要なものは早急に実施」を検討していますが、安全・省エネ・バリアフリーの“改修”を直ちに実行すべきです。
立ち止まる勇気を
区はいまだに建て替えの「方針は変えず、市場の動向を注視しながら適切に判断」としています。中野サンプラザや目黒区立美術館では価格高騰を受け、延期しても条件は好転しないと考え、中止・撤回の決断が下されました。練馬区が建て替えの方針を維持するのは、区民の不安と負担を徒らに長期化させるだけであり、延期ではなく、中止とすべきです。
これまでの訴えはこちらをご覧ください。